電車は洲本駅を発つと、ガタガタと民家の裏手をかすめるように走り、洲本川を渡り左へカーブするとほどなく宇山駅に到着した。
駅長にお断りして構内へ足を踏み入れる。真夏の陽射しに照らされて線路上には垂直カルダン車など様々な異色車両が休んでいた。
駅の待合室の壁には、島まつり案内や、淡路交通労働組合の「ご利用のみなさんへ」迫りくる廃線に関する紙面が貼られていた。
ちょうどこの日は洲本の島まつりで花火大会や盆踊りがある。洲本行のホームでは子ども連れの家族が電車を待っている。きっと洲本の島まつりへ向かうのだろう。笑い声と東京にはいない喧しいセミの鳴き声が混ざり合い、空気は夏一色に染まっている。
ホームのひび割れた壁の向こうは車両工場だ。開け放たれた窓の奥では、さまざまな車両が改造や整備を受け、部品が並んだ風景はまるで模型を組み立てているかのようであった。
作業の合間、工場の人によく冷えた麦茶を飲ませてもらった。ひと口、喉を通ると、全身に涼しさが広がる。短いお礼の言葉を告げ、駅を後にした。真上では入道雲が、海から吹き上げる風にゆっくりと形を変えていた。
2 件のコメント:
3年ほど前に鉄友が洲本に単身赴任してるので一泊しましたが、電車の痕跡は見事に残ってないのにびっくりしました。鉄友も「クルマで探したが何も無かった」と言っていました。
Cedarさん
洲本に一泊とは羨ましいです。淡路交通は線路も電車も跡形なく消えてしまった感じがします。道路がすっかり整備されたことにより、街の面影も殆どないと思います。淡路に限らないことですが。
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