ブログでしばらく「オリンパスペンSで撮った・・」を続けたのは、ネコパブ「国鉄時代」で毎号グラビアを飾っている国鉄SL情景の堀越庸夫さんから紹介された一冊の本「宮本常一と写真」石川直樹著がきっかけでした。
民族学者であり写真家でもあった宮本常一(1907~1981年)は昭和20~40年代の日本を10万枚くらい撮ったそうで、最も長く愛用したカメラがオリンパスペンSで、この本にはオリンパスペン発売後の昭和30年代後半の日本の情景が多数収められています。
「芸術写真は撮るな、読める写真を撮れ」が口癖で芸術的、主観的な写真を否定し組写真などはなく1情景1カット。上手い写真を撮ってやろうと意識しない。民俗学的写真を目指した宮本常一の作品は土門拳のような作品とは異なり、優しく温かみがあり、ほのぼのとした懐かしさを感じる日本の本当のスナップ写真なのでしょう。
なぜオリンパスペンSが宮本常一が狙う写真に最適であったかの記述には大変興味深いものがあります。
昭和30年代の鉄道を彼のような狙いで撮っていたら、時代や生活が読める鉄道風景に目が釘づけになる事でしょう。コンクール受けするような自己主張のある上手い写真を撮りたいのは誰しも考えること。これはこれとして宮本常一のような撮り方で鉄道を撮ってみると別の世界があるのではないでしょうか。
昭和30年代後半、私もオリンパスペンSを使いましたが写っていた大半は車両ばかり。今思えば35mm判カメラには写っていなかった車両の周りの光景にこそ価値があり、そんな記録にオリンパスペンSは最適だったのでしょう。民俗学者が撮った読める写真、そのインパクトは鉄道写真でもあてはまるでしょう。 (敬称略)
平凡社 2014年8月発行
宮本常一と愛用のオリンパスペン
昭和39年の奥羽本線大曲駅の行商の人たちと赤帽さん.
このような駅風景の写真からは数多くの事が読み取れる.